ユウキ:「博士、この前読んだレポートで気になったことがあるんです。
SNSって、友達と繋がったり、好きなアイドルの情報を見たり、すごく楽しい場所のはずなのに、どうしてあんなにケンカばっかり起きるんでしょう?
レポートには『アルゴリズムが分断を加速させる』って書いてあったけど、アルゴリズムって一体何なんですか?」
博士:「いい質問だね、ユウキくん。その疑問こそ、現代のインターネットを理解するための鍵なんだ。
まず『アルゴリズム』というのは、簡単に言うと『自動で計算や処理をしてくれるプログラム』のことだよ。
SNSの会社は、君がアプリを使っている間、できるだけ長くそこにいてほしいと考えている。なぜなら、長く滞在すればするほど、たくさんの広告を見てもらえるからね。それが会社の利益になるんだ。」
ユウキ:「なるほど。僕たちがYouTubeを見てると、次々におすすめの動画が出てきて、ついつい見続けちゃうのも、そのアルゴリズムの仕業なんですね。」
博士:「その通り!そして、ここからが重要なんだが、SNSのアルゴリズムは長年のデータから、あることを学んでしまった。
『人間の注意を一番引きつけるのは、怒りや恐怖といった強い感情である』ということをね。
だから、君をちょっとイラっとさせたり、不安にさせたりするような投稿を、無意識のうちに優先して表示するようになってしまうんだ。」
ユウキ:「ええっ!?僕たちを怒らせるため…?なんだか嫌な感じですね。」
博士:「意地悪をしているわけではないんだよ。あくまで『君の注意を引きつけて、長く滞在してもらう』という目的のためなんだが、結果的にそうなってしまう。
そして、このアルゴリズムが二つの恐ろしい現象を生み出す。
それがレポートにあった『フィルターバブル』と『エコーチェンバー』だよ。」
ユウキ:「フィルターバブル…泡ですか?」
博士:「そう、泡だ。想像してみてごらん。君が透明な泡(バブル)の中にいて、その泡の内側には、君が好きなものや、君が見たいとアルゴリズムが判断した情報だけが映し出される世界を。これがフィルターバブルだ。
例えば、ユウキくんがサッカーが好きで、Aチームのファンだとする。するとアルゴリズムは、Aチームのすごいプレー集や、Aチームを褒めるニュースばかりを君に見せるようになる。
逆に、ライバルのBチームの情報や、Aチームへの批判的な意見は、君が興味ないだろうと判断して、泡の外に追いやってしまうんだ。」
ユウキ:「好きな情報だけ見られるなら、快適そうですけど…。」
博士:「一見ね。でも、その泡の中にずっといるとどうなるかな?
世の中のサッカーファンはみんなAチームが好きで、Bチームはダメなチームなんだ、と思い込んでしまうかもしれない。
自分と違う意見が存在することすら、気づけなくなってしまうんだよ。」
ユウキ:「うわ、それは確かに危ないかも…。
じゃあ、もう一つの『エコーチェンバー』っていうのは何ですか?」
博士:「エコーチェンバーは『反響室』という意味だ。
山で『ヤッホー!』と叫ぶと、自分の声が返ってくるだろう?あれと同じ現象がSNS上で起きるんだ。
君が『Aチーム最高!』と投稿すると、同じAチームのファン仲間だけが『いいね!』を押したり、『その通り!』とコメントをくれたりする。
君の周りが、自分とそっくりな意見を言う人ばかりになるんだ。」
ユウキ:「自分の意見が、みんなに肯定されているみたいで、気持ちよさそうですね。」
博士:「そうなんだ。でも、その部屋の中では、同じ意見が何度も何度も反響しあって、どんどん増幅されていく。
最初は『Aチームはちょっと強いかな』くらいに思っていたのが、部屋の中にいるうちに『Aチームは絶対に負けない世界最強のチームだ!Bチームを応援するやつは何も分かっていない!』というような、極端な考えに変わっていってしまうんだ。
これを『集団分極化』と呼ぶ。」
ユウキ:「フィルターバブルとエコーチェンバー…似ているようで、ちょっと違うんですね。」
博士:「良いところに気がついたね。
フィルターバブルは、アルゴリズムが君のために『見せる情報を偏らせる』現象。
エコーチェンバーは、君自身が『似た意見を持つ人たちと繋がる』ことで生まれる現象だ。
この二つが組み合わさると、人は自分だけの『快適で、閉ざされた世界』に閉じこもってしまう。そして、その外にいる違う意見の人たちを理解できなくなり、『あいつらは間違っている!』と攻撃的になってしまう。
これが、SNSでケンカが絶えない大きな原因なんだよ。」
ユウキ:「そうだったのか…。僕たちが楽しく使っているSNSの裏側で、そんな仕組みが働いていたなんて。
知らず知らずのうちに、僕も誰かを傷つけていたかもしれないな…。」
博士:「大丈夫だよ、ユウキくん。大切なのは、まずこの仕組みを知ることだ。
自分が泡の中にいるかもしれない、と意識するだけで、世界の見え方は大きく変わる。
あえて自分と違う意見を探してみたり、色々なニュースサイトを見比べてみたりする。
そうやって、自分で自分の『泡』に窓を開けていくことが、これからのデジタル社会を賢く生きるための第一歩なんだよ。」