ユウキくん: 博士、こんにちは! 最近、ニュースでトランプ大統領のことをよく見るんだけど、アメリカは本当に国連を脱退しちゃうんですか?なんだか世界がバラバラになっちゃいそうで、心配になって…。
博士: ユウキくん、こんにちは。いい質問だね。世界の動きにしっかり関心を持っていて素晴らしいよ。結論から言うと、トランプ大統領が「国際連合」という組織そのものから完全に脱退する、と宣言しているわけではないんだ。だから、すぐにアメリカが国連からいなくなる、ということではないだろう。
ユウキくん: そうなんですか!よかった…。じゃあ、ニュースで言われていることは、どういうことなんですか?
博士: そこが重要なポイントなんだ。トランプ大統領は、国連から完全に「脱退」するというよりは、国連の活動を「軽視」したり、自分たちの都合の悪いことからは「離脱」したりするという戦略をとっている。つまり、「アメリカにとって得にならないなら、協力しないよ」という姿勢をはっきりと示しているんだ。
ユウキくん: 国連を軽視するって、具体的にはどういうことですか?
博士: うん、いくつか具体的な例を挙げてみよう。これらは、2025年に大統領に再就任してから、トランプ大統領が実際に行っていることだよ。
まず、特定の専門機関からの脱退だ。国連は、健康や文化、人権など、色々な専門分野のグループ(機関)が集まってできている。トランプ大統領は、そうしたグループから次々と抜けているんだ。
- WHO(世界保健機関)からの脱退: 就任してすぐに、WHOから脱退する大統領令に署名した。理由は「WHOは中国寄りだ」「アメリカがたくさんお金を払っているのに不公平だ」というものだね。アメリカは世界の健康分野で一番お金を出している国だから、この脱退はエイズ対策や新しい感染症への備えといった世界の公衆衛生に深刻な影響を与えると心配されているんだ。
- パリ協定からの再離脱: 地球温暖化対策のための国際的なルールである「パリ協定」からも、再び離脱することを決めた。これも「アメリカの経済に不公平な負担を強いる」というのが理由だ。
- 人権理事会などからの離脱: ほかにも、イスラエルに批判的だという理由で「国連人権理事会」から離脱したり、パレスチナの加盟を理由に「ユネスコ(国連教育科学文化機関)」から離脱したりしたこともある。
ユウキくん: なるほど…。国連という大きな枠組みから抜けるわけじゃないけど、大事な活動からはどんどん手を引いているんですね。でも博士、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」って言いますけど、なんだか「自分(の利益)ファースト」っていう印象もあるんです。それって考えすぎですか?
博士: いや、ユウキくん、それは非常に鋭い指摘だよ。多くの専門家が懸念している「利益相反」という問題に繋がる話だ。大統領のような公的な立場にある人が、自分のビジネスの利益のために政策を決めてしまうのではないか、という疑念のことだね。
ユウキくん: 利益相反…ですか。
博士: そうだ。通常、アメリカの大統領は就任する際に、自分のビジネスを「ブラインド・トラスト(目隠し信託)」といって、自分では一切関与できない状態にするんだ。そうすることで、国のための判断が自分の利益に左右されないようにする。しかし、トランプ大統領はそれをせず、大統領の職務とビジネスの関係が不透明なままだと批判されている。
実際に、彼の政策が個人の利益と結びついているのでは?と疑われる例がいくつかある。例えば、大統領でありながら、外国の政府関係者が彼のホテルを頻繁に利用したり、家族のビジネスが外国政府から大きな投資を受けたりしている。最近では、家族の暗号資産ビジネスがパキスタンと関係を深めたことで、アメリカのインドとの関係を損なってしまった、という指摘まであるんだ。
ユウキくん: 国のリーダーの決定が、自分のビジネスのためかもしれないなんて…。それに、最近僕のお母さんが「値段が上がって大変」って言ってたんですけど、これも関係ありますか?
博士: まさにその通り。ユウキくんのお母さんが感じていることは、トランプ大統領の政策が、遠く離れた日本の僕たちの生活にも影響を与えている良い例だよ。彼の「アメリカ・ファースト」政策の柱の一つに、外国からの輸入品に高い「関税」をかけるというものがある。
ユウキくん: 関税、ですか。
博士: そう。例えばアメリカが中国からの輸入品に関税をかけると、世界中のモノの流れが乱れてしまう。日本は食料やエネルギー、工業製品の原料など、多くのものを輸入に頼っているだろう? アメリカの関税政策で世界経済が不安定になると、円の価値が下がって(円安)、海外から物を買う値段が上がってしまうんだ。それに、日本の企業が使っている部品の値段が上がって、最終的に僕たちがお店で買う商品の値段も上がることになる。つまり、アメリカの政策が、巡り巡って日本の家庭の食卓にも影響を与えているわけだね。
そして、アメリカ国内ではもっと直接的な影響が出ている。関税によって輸入品の値段が上がると、スーパーに並ぶ食料品や衣類、家電製品など、身の回りのものの値段が上がってしまうんだ。これを「インフレ」と呼ぶ。この物価上昇は、特に低所得の家庭に大きな打撃を与える。なぜなら、所得が低い家庭ほど、収入の多くを食料品などの生活必需品に使うからだ。ある分析では、この関税政策によって、アメリカの平均的な家庭は年間で2,400ドル(約36万円)もの負担増になるとも試算されている。つまり、「アメリカを守る」という名目の政策が、実際には国内の、特に弱い立場の人々を苦しめているという現実があるんだ。
ユウキくん: 「アメリカ・ファースト」が、結果的に多くのアメリカ国民のためになっていないなんて…。それに、世界のリーダーであるアメリカがそんな状態だと、世界はどうなっちゃうんですか?
博士: その危険性は、ユウキくんが心配するように、とても大きい。
- 地球規模の問題解決が困難になる: まず、気候変動や感染症のパンデミック、貧困といった、一国だけでは解決できない問題への取り組みが世界全体で遅れてしまう。みんなで協力するためのルールからリーダーであるアメリカが抜けてしまうと、他の国々の足並みも乱れてしまうからね。
- 国際社会が不安定になる: 次に、アメリカが世界の警察官やまとめ役としての役割を放棄すると、力の空白が生まれてしまう。その隙を狙って、自分たちのルールを押し付けようとする国が現れたり、各地で紛争が起きやすくなったりする危険がある。かつて、国連の前身である「国際連盟」が第二次世界大戦を防げなかった大きな理由の一つは、提唱国であったアメリカ自身が参加しなかったことにあるんだ。歴史が繰り返されることを心配する声は多いよ。
- 同盟国との信頼関係が揺らぐ: 「アメリカは自分たちの都合でいつでも約束を破るかもしれない」と他の国々が思うようになると、国際的な信頼関係が大きく損なわれる。日本のような同盟国にとっても、アメリカの行動が予測できなくなり、外交が非常に難しくなるんだ。
ユウキくん: なんだか、すごく大変なことなんですね…。僕たちの未来にも直接関係してきそうだ。博士、僕たち中学生は、これからどんなことを考えたり、勉強したりすればいいんでしょうか?
博士: ユウキくんのように、世界の出来事に関心を持つことが、何よりも大切な第一歩だよ。その上で、博士からいくつかアドバイスをしよう。
- 色々な情報に触れてみよう: 一つのニュースだけでなく、様々な国の視点や、多様な立場の意見に触れてみることが大切だ。なぜトランプ大統領はそう考えるのか、そして、それに反対する人たちはどう考えているのか、両方を知ることで、物事を立体的に見ることができるようになる。
- 歴史を学ぼう: 博士が話した国際連盟の失敗のように、過去の出来事は未来を考えるためのヒントをたくさんくれる。なぜ国連が作られたのか、その歴史を知ることは、今の問題を理解する上でとても役に立つよ。
- 「なぜ?」を考え続けよう: そして一番大事なのは、誰かが言ったことをそのまま信じるのではなく、「なぜそうなるんだろう?」「その政策で本当に得をするのは誰だろう?」と自分の頭で考える力(クリティカル・シンキング)を養うことだ。
世界はとても複雑で、簡単な答えがない問題ばかりだ。でも、そうやって学び、考え続けることで、ユウキくんも、これからの世界をより良くしていく一員になることができる。今日の君の質問は、そのための素晴らしいスタートだよ。